ユングは、自著タイプ論において、人にはそれぞれ得意な(よく使っている)心理機能(認知機能)があると提唱しました。これは人の認知の偏りを把握するのに非常に便利な概念です。(心理学的)タイプ論の「心理機能(認知機能)」という概念が、MBTIの理論を支えていると言っても過言ではありません。
心理機能(認知機能)とは?
(心理機能(認知機能)を理解するためには、「外向・内向」と「感覚・直観」「思考・感情」を事前にきちんと理解しておく必要があります。まず、下のオレンジ色のタブをタップして読んでみましょう)
「外向・内向」と「感覚・直観」「思考・感情」 [ユング心理学]
ユングが提唱した「外向・内向」
MBTIにも登場する外向・内向の性格指標は、もとは心理学的タイプ論でユングが最初に提唱したもののようです。ユングは精神科医でもあり、その臨床経験から「ヒステリー患者と統合失調症患者とに対比的に観察されるリビドーの流れを、それぞれ「外向(Extraversion)」および「内向(Introversion)」と定義」* し、治療に役立たせていました(リビドーとは、もとはラテン語で欲望・欲情を意味するが、ユングは人を突き動かす心的(精神的)エネルギーと定義した)。* ユング『タイプ論』とプラグマティズム : 「個人的方程 式(persönliche Gleichung)」としての諸類型 (by 小木曽, 由佳) より引用
東京大学総合文化研究科 認知行動科学 丹野義彦による「性格5因子論 (第2次元) 外向性·内向性(E次元)」より引用↓
ユングは外向・内向を「病理の枠組み」だけでなく、人間一般まで拡張することに試みました。心理学的タイプ論は病理の枠組みではなく、人間一般という広い枠組みで説明されています。(この試みは画期的ともいえるかもしれません。例えば、元々は病気を治すために飲んでいた薬を、健常者がより健康になるよう使い始めたようなものです。病気でないのに薬を飲むなんておかしいと思う人も多いかもしれません)
ユングの主張を簡単にまとめると、以下のようになります↓
- 人は誰しも外向・内向の両方を持っており、
- 同時には使えず、意識できるのは片方のみ。
- 人には、心が崩壊しないよう、外向・内向のバランスを取ろうとする性質があるため、
- 外向性・内向性のどちらかに偏った際、無意識にもう一方に引き戻そうとする(←これを「補償性」と呼びます。)
4つの心理機能(心理機能)
ユングは、外向・内向は対立するものと考え、どちらかが意識的に使われ、もう一方は無意識の領域に沈んでいると仮定しました。さらに、それ以外の対立概念についても、心理学的タイプ論で説明しています。それはすでにMBTIで説明した[感情・思考]、[感覚・直観]という対立概念=心理機能です。
東京大学総合文化研究科 認知行動科学 丹野義彦による「性格5因子論 (第2次元) 外向性·内向性(E次元)」より引用↓
4つの心理機能をを整理すると以下のようになります↓
- 意思決定(判断)するときに使う心理機能
- 感情←対立→思考
- 情報収集(知覚)するときに使う機能
- 感覚←対立→直観
「認知の仕組み」で説明したように、人は、意思決定(判断)機能と情報収集(知覚)機能を交互に駆使しています。
両方を使う
意思決定(判断)機能 ⇄ 情報収集(知覚)機能
※意思決定(判断)機能の別名:合理機能、
情報収集(知覚)機能の別名:非合理機能
『合理的とは、「偶然性や非合理的なものを意識的に排除し」、「現実の出来事のうち無秩序なものや偶発的なものに一定の型を押しつける、あるいは少なくともそうしようとする」ことを意味』*し、『これに対して「非合理的」とは、「理性に反する」 (widervernünftig)という意味ではなく、「理性の外にある」(außervernünftig)、つまりは、地球には月が一つあるとか、塩素は元素の一つであるとか、単なる偶然とか、理性では説明できないという意味』*します。
*英語教育の哲学的探究2『C.G.ユング著、林道義訳 (1987) 『タイプ論』 みすず書房』より引用及び筆者改変
心理機能は、認知機能と同じ意味です。一般に認知科学において、認知機能は「生物が対象の知識を得るために、外部の情報を能動的に収集し、それを知覚・記憶し、さらに推理・判断を加えて処理する機能」と定義されます。
主な認知機能 | |
---|---|
記憶力 | ものごとを忘れずに覚えておき、必要な時に取り出す力 |
計画力 | その場の状況に合わせて最適な計画を考え、準備し、行う力 |
注意力 | 大切なことや必要なことに気づいて入手し、意識を集中させ、持続する力 |
見当識 | 現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握している力 |
空間認識力 | 物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が3次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する力 |
*上記の表は、認知機能の見える化プロジェクト『認知機能 – 概説 –』より引用及び筆者改変した物です
かの有名な心理学者のユングは、著書「タイプ論(Psychological Types)*」において心理機能(認知機能)を4種類仮定しました。
*「タイプ論(Psychological Types)」は、日本語訳されているので、気になった方は以下のリンクより内容を確かめてみてはいかがでしょうか↓
その4つの心の働き(機能)には、[感情型(F型)、思考型(T型)]、[感覚型(S型)、直観型(N型)]があります。また、[感情型(F型)、思考型(T型)]を意思決定(判断)機能、[感覚型(S型)、直観型(N型)]を情報収集(知覚)機能と呼びます。以下それぞれ具体的に説明します。
臨床心理学用語事典「心理的機能(思考・感情・感覚・直観)」より引用開始(一部筆者改変)
灰皿を例にとった例え
思考、感情、感覚、直観の4つのタイプの物事の捉え方の説明として、「瀬戸物の灰皿をどう捉えるか」という例があります。それは以下のようなものです。
- 思考
ーこれが瀬戸物という部類に属すること、その属性の割れやすさなどについて考える。 - 感情
ーその灰皿の感じがいいとか悪いとかを決める。 - 感覚
ーその灰皿の形や色などを的確に把握する。 - 直観
ー見た途端、幾何学の円に関する問題の解答を思いつくなど、そのものの属性を越えた可能性をもたらす。
引用終了
人は、この機能を使って世界を認知し、物事に取り組みます。(MBTIでは、この心理機能の発達のバランスで、得意・不得意が決まり、性格タイプが16に分類されます)
また、ユングは、内向型(I)・外向型(E)という概念を初めて提唱した心理学者としても有名です。意識が外の世界か・自分の内面に向くかどうかということです。外向性と内向性の好みはしばしば態度*と呼ばれます。
*心理学の専門用語としての「態度」
→人間の行動の背景にある対象への感情や評価的な判断に基づいた心理的な傾向。
そして、4つの心理機能(認知機能)は、外向性(E)と内向性(I)と連動して機能します。つまり、さらに8つに分類することができます。たとえば、外向的な感情機能、つまり、外向的感情(Fe)と表現します。表で示すと以下のようになります↓
思考型(T型) | 感情型(F型) | 感覚型(S型) | 直観型(N型) | |
外向型(E型) | 外向的思考(Te) | 外的的感情(Fe) | 外向的感覚(Se) | 外向的直観(Ne) |
内向型(I型) | 内向的思考(Ti) | 内向的感情(Fi) | 内向的感覚(Si) | 内向的直観(Ni) |
8つの心理機能(認知機能)
以上のように、4つの心理機能([感情型(F型)、思考型(T型)]、[感覚型(S型)、直観型(N型)])が外向・内向と連動して、結果として8種類の心理機能に分類できます。ユングは、この8つの心理機能(認知機能)を用いて、8つの性格タイプに分類しました。MBTIにおいて、心理機能(認知機能)とは、この8つの機能を指すことが多いです。
8つの心理機能のカンタンな説明
- Te(外向的思考)
- 実世界における客観性・論理性を重視
- 仕事を順番に考える
- Ti(内向的思考)
- 精神的世界を重視し,一貫した知識世界の構築を目指す
- 分析と問題発見に優れ,トラブル対応に適している
- Fe(外向的感情)
- 他人の感情を重視
- 他人を助けることに喜びを感じる
- Fi(内向的感情)
- 個人の感情や信念,モラルを重視
- 周囲の状況を「良い/悪い」に基づいて判断する
- Se(外向的感覚)
- 現在の世界を体験または知覚することを重視
- 現在を重視し,わくわくする体験を生きがいとする
- Si(内向的感覚)
- 事実や過去のイベントの記憶を重視(伝統)
- ルールや義務に忠実で,大変な仕事にも首尾一貫して取り組む
- Ne(外向的直観)
- 実世界における経験と可能性を重視
- 成長と改良に腐心する
- Ni(内向的直観)
- 自分の直観を重視。抽象的な情報から物事の全体を感じる力に優れる
- 世界が人々をどのように知覚するかに敏感で,仮面を被る能力に優れる
8つの心理機能の詳細は以下の記事より読むことができます↓
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