『ケトン体』とは、体内のブドウ糖が枯渇した時に、肝細胞のミトコンドリアで作られる『短鎖脂肪酸』のことです。早い話が『ケトン体』=『短鎖脂肪酸』です。体が飢餓状態となって体内のブドウ糖が枯渇した時に、体がブドウ糖に代わる “代替エネルギー源” として作り出す『短鎖脂肪酸』、それが『ケトン体』と呼ばれるものです。
ケトン体とは
この『ケトン体』は “脳にエネルギー源を供給する” ために肝臓で作られます。脂肪酸の分子の大きさでは血液脳関門を通過できませんので脳のエネルギー源にはなれませんが、『ケトン体』は分子が小さいので血液脳関門を通過でき、脳のエネルギー源になることができます。
(血液脳関門は、脳にとって有害な物質をブロックするなど、血管から脳へと入る物質の “関所” のような役目を持っていて、循環血液と脳内の物質の輸送を厳密に制御しており、血液中の物質を簡単には脳に通さない仕組みになっています。脳内の毛細血管では内皮細胞の隙間が狭く、物質が通り難くなっているのです。
この血液脳関門を通過することができるのは、分子量500以下のものや、この関門に備わっているゲートをもともと通過できる物質、脂溶性で細胞膜を通過できる物質に限られます。それ以外の物質は、血管から脳へと移ることができないように制限されているのです。
脂肪酸の分子では大きすぎるため、血液脳関門を通過することができず、脳のエネルギー源になることができません。
しかし、「ブドウ糖」『ケトン体』『短鎖脂肪酸』のように “分子が小さい” 物質はこの血液脳関門できますので脳細胞まで達することができ、脳のエネルギー源になることができるのです)
上記の図は、ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)による腎保護作用のメカニズム より引用
『ケトン体』は「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」の3つを総称して言い(ケトン体の75%を「β-ヒドロキシ酪酸」が占めています:参照「医学書院」)、水溶性脂肪であるため肝臓から血流を介して心臓や筋肉や腎臓や脳などの組織に速やかに運ばれ、(赤血球と肝細胞以外の)正常細胞のミトコンドリアで代謝されてエネルギーとなります。
(『短鎖脂肪酸』も水溶性脂肪です )
「アセト酢酸」と「β-ヒドロキシ酪酸」は、ブドウ糖の “代替エネルギー源” となります。(ケトン体の75%は「β-ヒドロキシ酪酸」です)
しかし、「アセトン」は “呼気排泄される” ため、エネルギー源にはなりません。
ですから、「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」の3つのうちで、ブドウ糖の “代替エネルギー源” となるのは「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」だけになります。
体内のブドウ糖が枯渇した時に、肝細胞のミトコンドリアで脂肪酸が分解(β酸化)されてアセチル-CoA が生成され、このアセチル-CoA から合成される「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」の3つを総称して『ケトン体』と言い、この一連の工程を『ケトン生成』と言います。
※なお、『ケトン体』と総称される「β-ヒドロキシ酪酸」「アセト酢酸」「アセトン」の内、「β-ヒドロキシ酪酸」は “ケトン基” を持っていないので、厳密には『ケトン体』ではなく、『短鎖脂肪酸』です。
詳しくは、ケトン生成とは?そのメカニズムについて をご参考ください。
短鎖脂肪酸とは
上記の図は、話題の短鎖脂肪酸、増やすキーワードは食物繊維と腸内環境 より引用
『短鎖脂肪酸』とは、生の穀物(生玄米など)の「β(ベータ)デンプン(難消化性デンプン)」や「不溶性食物繊維のセルロース」及び「水溶性食物繊維」(難消化性成分)を、腸内細菌が発酵分解する時に『発酵産物』として産生する物質です。
上記の図は、介護コラム24[中鎖脂肪酸] より引用
『短鎖脂肪酸』は「蟻酸」「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」「吉草酸」「カプロン酸」の6つを言い、炭素の数が1~6個の脂肪酸で、これは「ブドウ糖」のように “分子が小さい” 脂肪酸(低分子の脂肪酸)なので血液脳関門を通過することができますから、脳細胞へと届くことができます。よって、この『短鎖脂肪酸』は赤血球以外の “脳細胞を含めた全身すべての細胞” の “ブドウ糖の代替エネルギー源” となることができます。
上記の図は、丸元康生のビジュアル栄養学+レシピ: 2012年5月 より引用
以上、ケトン体と短鎖脂肪酸をまとめると以下のようになります↓
- 『ケトン体』=「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン(呼気排泄されてエネルギー源にはならない)」
- 『短鎖脂肪酸』=「蟻酸」「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」「吉草酸」「カプロン酸」
つまり、いわゆる『ケトン体』=『短鎖脂肪酸』ということになります。
では、『ケトン体』と『短鎖脂肪酸』の違いは何かについては、以下の記事を参照ください↓
ケトン体は、ブドウ糖の代替エネルギー源
『ケトン体』は、赤血球と肝細胞を除いた “脳を含めた全身の細胞” のエネルギー源として利用されますので、非常に便利なブドウ糖の “代替エネルギー源”です。
細胞ごとのエネルギー源
(以下、人体の細胞のエネルギー源、小腸と大腸は特殊 より一部引用・改変を含みます)
細胞が活動するにはエネルギー源が必要です。
(1)赤血球
ミトコンドリアを持っていないので、ブドウ糖が唯一のエネルギー源。
(2)脳
ミトコンドリアを持っているが、血液脳関門のため、脂肪酸の大きさは通過できない。
従って、ブドウ糖と大きさが小さい『ケトン体』がエネルギー源。
(3)体細胞
赤血球以外の細胞は全てミトコンドリアを持っているので、骨格筋、心筋、内臓などの体細胞は「ブドウ糖」『ケトン体』「脂肪酸」をエネルギー源とする。
(4)肝細胞
肝細胞は、そのミトコンドリア内で『ケトン体』を産生するが、自身は利用せずに血中に放出して他の細胞のエネルギー源に回す。従って、肝細胞は「ブドウ糖」と「脂肪酸」をエネルギー源とする。
そして、小腸と大腸は特殊なエネルギー源を利用しています。
(A)小腸
小腸の細胞のエネルギー源はグルタミンが50~60%、ケトン体が15~20%、ブドウ糖は5~7%とごく少ない。
グルタミンは血中に最も多く含まれている遊離アミノ酸です。
(B)大腸
大腸の細胞のエネルギー源は『短鎖脂肪酸』のみである。
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赤血球はミトコンドリアを持っていないので「ブドウ糖」が唯一のエネルギー源となりますが、糖質制限などで糖質を一切摂らなくても、必要に応じて「糖新生*」による「ブドウ糖の産生」でカバーされますので大丈夫です。
*糖新生についてはこちら → 「糖質制限で注意すべき「糖新生」とは」
(『ケトン体』や『短鎖脂肪酸』は “ミトコンドリア” で代謝されて ATP(アデノシン三リン酸:生体エネルギー)が産生されますので、ミトコンドリアを持っていない赤血球では『ケトン体』や『短鎖脂肪酸』をエネルギー源にすることができません。なので、赤血球の唯一のエネルギー源はブドウ糖になります )
また、肝細胞は飢餓状態に入った時に『ケトン体』を生成する工場の役目があり、肝細胞自身はこの『ケトン体』を利用せずに血中に放出して他の細胞のエネルギー源に回しますので、肝細胞は『ケトン体』をエネルギー源としません。肝細胞のエネルギー源となるのは「ブドウ糖」と「脂肪酸」です。ブドウ糖が枯渇した時には、肝細胞は「脂肪酸」をエネルギー源にできます。
以上まとめと、『ケトン体』は、赤血球と肝細胞を除いた “脳を含めた全身の細胞” のエネルギー源として利用されますので、非常に便利なブドウ糖の “代替エネルギー源” となります。
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